
作業や課題を先延ばしにすることは、悪いイメージがあるかもしれません。しかしながら、先延ばしは私たちをクリエイティブにする大きな効果が期待できます。
そこで今回は、先延ばしによって私たちの創造性が高まる原理について掘り下げて解説していきたいと思います。
本記事の目次
先延ばしは「頭の片隅に課題を置く時間」を創造する
ゲームをしながら先延ばしにすると、28%創造性の高い提案書が作れる
先延ばしを「単に遅らせる行為」だと考えてはダメです。先延ばしとは、作業や課題を先に延ばすことによって、「ながらで解決する時間」を増やすことに繋がるからです。
このことによって、閃きが舞い込んできやすくなるのです。
先延ばしにした学生の提案書は、そうでない学生よりも二八パーセントも創造性が高いと評価された。(中略)
この実験から、創造性を高めたのはゲームでも休息でもないということがわかった。課題を知らされる前にゲームをした場合には、より斬新な提案が出たわけではなかったからだ。よりユニークな提案をするためには、頭の片隅に課題のことを置きながらゲームをして、先延ばしにする必要があったのだ。
アダム・グラント(2016)『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』,p.142, 三笠書房
重要なのは、先延ばしの中身ではなく、先延ばしそのものだということです。先に延ばすことにより、別の行動の最中に、閃きが自然に折りやすくなるのです。
先延ばしは「デフォルト・モード・ネットワーク」を感化させる
心と体の休息時に脳は活発に動き、複雑な考えを処理する創造力を育てている
先延ばしにすると、脳を休める時間を確保することができます。実は、脳が何も考えないことは、真の創造性を育てるうえで、とても大切な行為なのです。
何かを考えないようにする能力は創造力の要なのだ。
デイビッド・ロック(2019)『最高の脳で働く方法』,p.155, ディスカヴァー・トゥエンティワン
これは脳のデフォルト・モード・ネットワークという機能によるものです。私たちが何もしていない時、脳は記憶同士を新しく結びつけ、思考回路をアップデートしているからです。
先延ばしにすると、脳のデフォルト・モード・ネットワークによって複雑な考えを処理する創造力が育っていくのです。
待合室に座っていたり、夕食後にくつろいだりして、読書やテレビや電話から離れているとき、デフォルト・モード・ネットワークは未来の計画を立て、過去の情報を整理している。つまり人生を「処理」している。それは空想や瞑想をしているときか、ベッドに横たわって眠りにつくまえに活性化する。内省や他者について考えるためのシステムであり。ひとつのタスクに集中していないときに脳の一部がさかんに活動するのだ。
健全なデフォルト・モード・ネットワークは、人の脳が活発に働き、情報を長続きする場所に蓄え、大局観を与え、複雑な考えを処理し、真に創造的になるうえで不可欠だ。
ウィリアム・スティクスラッド,ネッド・ジョンソン(2019)『セルフドリブン・チャイルド―脳科学が教える「子どもにまかせる」育て方』,p.23-24,NTT出版
ノースウェスタン大学教授のマーク・ビーマンによると、デフォルト・ネットワークの一部を担う内側前頭前皮質の活性の低い人は、「突然のひらめき」と言われるインサイトが得られにくい傾向が見られたようです。
しかも、マーク・ビーマンは数々の実験を経て、誰がインサイト(突然のひらめき)を得る可能性が最も高く、誰がそうでないかを、実験開始前に脳の活性化パターンだけで判断できるまでになったとしています。
アイデアを出すことにおいて、人は8時間デスクに居座り続けるよりも、作業しては休み、他の事に多動する方が良いんです。この点から言えば、クリエイティブワークは、リモートワークと相性が良いと考えることもできますよね。
先延ばしによるストレス軽減が創造性を手助けする
プレッシャーを避けるだけで創造性が45%も増加する
創造性を高めたかったら、生産性を意識させないことが重要になります。プレッシャーや不安を削ぎ落すことが大切になります。
過度な時間的プレッシャーの下では、創造的な解決策を思いつく可能性が四五%減少することを発見した。あらゆるストレスは、創造性のかわりに、「プレッシャーによる二日酔い」とアマビールが名づけたマイナス効果を生み出すという。しかしも、人びとがストレスから解放された後も、何日か創造性が低下する現象だ。
エリック・バーカー(2017)『残酷過ぎる成功哲学9割がまちがえる「その常識」を科学する』,p.302,飛鳥新社
ビーマンは、心の状態とインサイトの間に強い相関関係があることも明らかにしている。幸福度が増すとインサイトが生じる可能性が高まり、不安が増せばその可能性は下がる。
デイビッド・ロック(2019)『最高の脳で働く方法』,p.160, ディスカヴァー・トゥエンティワン
先延ばしにすることできれば、クリエイティブに最も脅威となる「締め切りへのプレッシャー」を軽減することができますよね。
先延ばしはワーキングメモリの機能を高める
脳へのダメージを減らせば、大喜利脳・アドリブ脳はより良く機能する
プレッシャーや不安が軽減されると創造力が高まることを前述しましたが、これは、ストレスが下がることにより、ワーキングメモリの機能が高まることが関係していると考えられます。
ワーキングメモリとは、現状を解釈し、長期記憶の中から必要な情報を取り出し、情報を再構成します。ワーキングメモリは、何を選び、どう使うのかを取り決める脳の指揮者なのです。
瞬時に課題や状況をワーキングメモリで捉え、脳にストックされた情報から必要なものを選び出し、結びつけていくので、アドリブでクリエイティブの大喜利をするような役割を果たします。
ワーキングメモリは、情報を操作、更新するあいだ、一時的に保存しておく機能である。現在を過去と未来に関連づけ、つながりをつくることを可能にし、創造性の鍵となる。(中略)ワーキングメモリが損なわれると、情報を統合し、話の筋道を理解し、保持しておくことがむずかしくなる。(中略)頭に入ってくることが多すぎて、大きな認知的負荷がかかる状態は、一度に開いているブラウザが多すぎるようなものである。コンピュータはどこかで処理速度が落ちるか、クラッシュする。ストレスがかかりすぎた脳も同じだ。
ウィリアム・スティクスラッド,ネッド・ジョンソン(2019)『セルフドリブン・チャイルド―脳科学が教える「子どもにまかせる」育て方』,p.205,NTT出版
ラトガース大学のマウリシオ・デルカドによれば、ストレスは残念ながらワーキングメモリを深く傷つける。デルガドはこれを実証しようと、被験者の両手を水に浸してストレスを与えた。水に手を浸すくらい、たいしたストレスではないように思えるが、これは被験者を傷つけることなくストレスを誘発する方法として心理学的に認められたものだ。さて、この実験をおこない、金融商品への投資結果のよしあしを判断してもらったところ、被験者がじっくりと考えようとせず、感情のままに結論をだす傾向が強くなることが判明した。
トレーシー・アロウェイ、ロス・アロウェイ(2013)『脳のワーキングメモリを鍛える!情報を選ぶ・つなぐ・活用する』,p.61-62,NHK出版
先延ばしにすることで、脳の負荷を分散させることができるため、ワーキングメモリがより高い状態で作業に挑むことができます。
先延ばしは意欲的な人だけを創造的にする
意欲的な先延ばし社員は創造性が極めて高いと評価される
先延ばしは意欲と掛け算にあることで、成果を発揮します。意欲があるからこそ、先延ばしはクリエイティブなコンディショニングとして成立するわけです。
シンの実験結果は、実社会にも当てはまるのだろうか。それを確かめようと、シンは韓国の家具店からデータを収集した。
いつも先延ばしにする従業員は、より多くの時間を思考に費やしており、上司からは創造性が極めて高いと評価されていた。(中略)もともと大きな課題を解決する意欲をもたない従業員は、先延ばしをしても問題解決が遅れただけだった。一方で、新しいアイデアを生み出すことに情熱がある従業員は、先延ばしにすることが創造性のきっかけになっていた。
アダム・グラント(2016)『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』,p.160-161, 三笠書房
意欲的な人は基本的に様々な情報を主体的にピックアップしていきますよね。
意欲的な社員のインプットは、先延ばしがあると、(1)頭の片隅に課題を置く時間も、(3)デフォルト・モード・ネットワークの促進も、(3)ストレス回復も、(4)ワーキングメモリへのケアも、すべて確保できます。
だから、先延ばしは意欲的に取り組む人ほど与えるべきなんです。
先延ばしに罪悪感を与えないことが重要
先延ばしで自分を許すことが後の成果に大きく繋がる
あなたがディレクターなら、クリエイターが罪悪感なく先延ばしできる機会を与えた方が良いですし、あなたがクリエイター自身なら、先延ばしに後ろめたさをあまり感じない方が良いでしょう。
先延ばしは罪悪感が薄いからこそ、気持ちよく過ごせるようになります。
自分を許すと、気分が良くなるだけでなく、なんとなく先延ばしも予防できる。一一九人の学生を対象にした調査によると、あるテストの勉強を先延ばしにした自分を許した者は、次のテストで先延ばしをする割合が低くなった。自分を責めるよりは先へ進むことができたので、好成績をおさめられたのだ。
エリック・バーカー(2017)『残酷過ぎる成功哲学9割がまちがえる「その常識」を科学する』,p.346-347,飛鳥新社
先延ばしによって、自分を責めるのではなく、許すことで、気持ち切り替え、先に進むことができます。
最後に:戦略的な先延ばしは創造性をどんどん高めてくれる
先延ばしはクリエイティブにとって良薬である
以上、「先延ばしと創造性」というテーマを掘り下げてきました。先延ばしってクリエイターにとってかなり良い施策ですよね。先延ばしは、脳にとって実益が非常に大きいんです。
私自身、仕事におけるクリエイティブワークにおいては、「ランダム化する」というのを非常に大切にしています。以下の引用なんかは、「創造的な仕事の実現」をかなり端的に言い当てていると感じます。
創造性を研究するアルフォンソ・モンツォーリは次のように要約する。「創造的な個人は、継続する過程のなかで秩序と無秩序、単純さと複雑さ、正気と狂気を行ったり来たりする」
ジョシュア・ウルフ・シュンク (2017)『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』,p.148-149, 英治出版
もしかすると、社会人は秩序や計画を守ることに捉われ過ぎているのかもしれません。もちろん、秩序や計画こそが価値を生む業界もあるでしょう。
成果物を創り上げるクリエイターの場合は、結果的に出来上がっていれば良いことを考えれば、戦略的にオフィスワークっぽさを逸脱し、創造性を高めることは非常に重要だと感じます。
現実的な問題で言えば、先延ばしをクライアントに許容してもらえるコミュ力や人間性もクリエイターの結果に直結してくるでしょう。
先延ばしとは、クリエイターにとって良薬であり、とっても効果的なコンディショニング術なのです。
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